「・・・まって、もう一度説明してもらえるかな、リヴァル」
どうやらルルーシュが指定した店はかなりの距離があったらしく、全速力で走ったというスザクは肩で息をしながら俺に詰めっ寄って来た。いや、怖いですスザクさんまじ怖い。殺されるんじゃないだろうか俺。
スザクが戻ってきたのは、ルルーシュと雑談しながら久々の風呂を堪能し、再度オヤジ臭を消すため全身くまなく洗って浴室を出た頃だった。あいつらしくなく息を切らせて戻ってきて、ルルーシュと俺を確認すると安心したように息を吐き、何も無かったか聞かれたからさっきの話をしたらこれだ。
いっとくけど、俺じゃなくルルーシュが自分で言ったんだからな。
素直かよ。
怒られるってわかってるんだから隠せよ。
で、再度説明するのは言った本人じゃなく俺かよ。
怒られるのも俺かよ。
あ、俺が年長者ですもんね。むしろ保護者枠。なら仕方ないか。
「説明より先にスザク。お前軽くシャワー浴びて来い。折角風呂に入ったのになんでそんなに汗をかいてるんだ。走ってくるとか、馬鹿なのか?」
ルルーシュにそう言われてしまえば、先ほどの及第点が頭をよぎり、スザクは渋々ながら浴室に消えた。これで少し頭が冷えてくれるんじゃないか?と思ったのだが、扉の向こうからシャワーの音と共に「リヴァル、早く説明して!」というかなりお怒りの声が聞こえてきたので、俺は浴室の扉の前に立ち、覚悟を決めた。スザクはもう一度というが、ルルーシュが買い物に出ようとして俺に止められた話はちゃんと理解している。ならば俺が今ここで話すべきは・・・。
「こちらにおられる我らが皇帝陛下は、ご自身の身に及んだ危険に対し、犯人はあくまでも強盗目的で、金品を盗ったら終わりだと思っておられるようで、護衛の俺としては是非騎士殿にもご協力いただき、こちらの天然記念物的鈍感陛下に世の男どもの危険をですね、あ、女性の危険も含めてですね、教えて差し上げたい訳なんですよ」
「は!?」
浴室の中から、ものすごくドスのきいた声が聞こえてきた。しかも反響付きで、それだけで足がすくみそうになる。なんだよこいつ、どんな修羅場くぐり抜けてきたんだよ!?俺、本気で殺されるのでは?死なないけどね!?と、一瞬で考えてしまうほど恐ろしく、不老不死者をビビらせるなんて相当だぞと冷や汗を流していた。
「それよりリヴァル、そのよく解らないしゃべり方はいつまでやるんだ?」
おいおい、この恐ろしい声には無反応かよ。
肝が座ってるのか、修羅場なれしてるのか、鈍感なのか。金持ちの坊っちゃんだから自分が怒鳴られる立場になったことがないとかか?おじさんには難しすぎて判断ができない。
「え?だめ?楽しくない?」
この恐ろしさだってある程度軽減できるわけだし。
「お前、厨二病とかいう奴なのか?」
「うへぇ!?いや、それは無い・・・と思うけど、まあ嫌ならやめるか」
この見た目で中二病はやばい。
やっぱこれはあれだよな、あの当時どうして俺を巻き込まなかったんだ馬鹿野郎!おれだって悪逆皇帝の部下にぐらいなれたんだからな!っていう思いがまだ根強く残っているんだろうな。
バンという音と共に湿った空気が室内に流れる。
着替えを手に持ち、腰にバスタオルを巻いただけで髪すら拭いていないスザクがものすごく不愉快そうな顔で出てきた。
あ、やべ。ガチギレじゃん。
「おまえな、着替えてから出てきたらどうだ?それに髪ぐらい乾かしてから出てこい」
ぽたぽたと滴を垂らしながらずかずかと歩み寄るスザクに、ルルーシュは呆れたように言った。着替えを空いていた椅子に置き、タオルでガシガシと髪を拭きながらこちらを睨んでくるスザクは怖い。何でルルーシュじゃなく俺を睨むんだよ。理不尽だ!
「だからな、ルルーシュは今まで裏路地に連れ込まれたり、この前みたいに襲われるのは、身なりのいい子供だから強盗しやすいからだって言うんだよ」
「俺は子供じゃない!」
俺から見れば人類皆子供ですあきらめろ。
「僕は今冗談を聞く気分じゃないんだけど?」
んなこと顔見りゃわかる。
「俺もこんな冗談を言うほど馬鹿じゃないって。それにほら、見てみろよ」
当事者のルルーシュは、まるでスザクが馬鹿な子のような視線を向けて来ていた。おそらくスザクはルルーシュが乱暴されそうになった理由が分かっていないと認識されているのだろう。
ようやく全部理解してくれたスザクは、肺の中の空気を全部絞り出すような大きな大きなため息を吐いた。
「あのね、ルルーシュ」
「いいからさっさと拭け。床が濡れる」
言われて、再びタオルでガシガシと髪を拭く。
「君が狙われたのは、物取りが目的じゃないだろ。大体物取りなら、どうして服を脱がされそうになってたんだ?」
「身ぐるみを剥ぐためだろう?この服だって売れば値が付くからな。もちろん腕時計も取るつもりだっただろう。だからこそ、全てを奪われる前に近づいた奴らを一網打尽にし、弱者を狙う卑劣な犯罪を犯した代償に男の象徴を潰してやるんだ。あんな奴らに男である資格は無いからな」
ふふん、と偉そうな顔で言うのだが、ルルーシュが話を進めるにつれ、スザクの顔がドンドン凶悪になっていった。なんでルルーシュは平気なんだ、こんなスザクを前にして。俺がお前ならちびってるぞ確実に。
しかし服を脱がされる=服も取られるだけって考えていたとは恐れ入った。こいつ自分の見た目解ってないのかよ。むしろ人身売買の対象にしかならんだろ。
「ねえルルーシュ、ちょっと来てくれるかな?」
にっこり笑顔でスザクは言うが・・・目は笑ってない。やばい、何かものすごくやばい。ルルーシュもさすがに不穏な空気を察したのか眉を寄せていた。
「いいから。ほら、ね?」
声が優しいから余計に怖いんですがスザクさん。
腕を引っ張られ、ルルーシュは渋々立ち上がると、そのまま予想通りベッドに連れていかれて、いやいや待て待てお前それはやばいからと内心冷や汗をかいていた。ルルーシュをベッドの端に座らせ、その隣にバスタオルを腰に巻いただけのスザク。
ルルーシュはどうして移動したのか完全に解って無い顔だ。
「ルルーシュ、君は何でリヴァルが顔色悪くしてるか解る?」
俺の顔色を危険信号代わりにしないでくれ。
そしてお前の意図に気づいてる事を察したならやめてくれ。
「確かに顔色が悪いな。湯冷めしたんじゃないか?」
はい、はずれです。
その横で本気でため息を吐くスザク。
いやー凄いぞこれは。ここまで気づかれないって事は、そういう実害が今まで一度も無かったって事だから、こいつの防犯対策はなかなかだってことだよな。って、今後もそうとは限らないし薬盛られたり即縛られたらアウトなんだからな。こいつひょろひょろだからみんな油断しまくりで、誰も負けるなんて思わなかったんだろうな。
「これは一回痛い目に会わなきゃだめみたいだね。リヴァル」
「俺は出て行かないぞ」
「そんな趣味あるの?意外だな」
「ない!ないが、お前がやろうとしている事を黙認するわけにはいかない!!」
どっちの趣味だと聞きたいが、ここはあえて聞かない。
「まさか、リヴァルがヤるって?冗談でしょ?」
「俺からすればお前が考えてる事に冗談だろって言いたいよ。駄目だからな、それやったらマジで殴るからな」
「でも、説明しても理解しなそうだよ」
「だからって実力行使すれば、あいつらと同罪だからな。お前がその気なら、俺は全力で阻止してルルーシュ連れて出てくぞ。もちろんお前とはここでお別れだ。そんな事を考えてるなんて、俺はお前を見損なったぞ、スザク」
俺が本気になってコードをつかえば負けることはない。
スザクには悪いが、ショックイメージでもぶつけて、動けなくなってるスキに逃げることは十分可能だ。たとえ相手が、スザクであったとしても。
そんな俺の本気が伝わったのか、スザクは傷ついたように顔を歪め、ルルーシュは何で喧嘩しているんだと不思議そうにこちらを見ていた。